健康科学グループ
「からだに良い」って何だろう、を科学する
健康科学グループでは、「『からだに良い』とはどういうことなのか」をキーワードに、天然物を由来とする機能性物質の様々な健康問題や疾患に対する影響を生体および分子レベルで解き明かすことを目指しています。特にあらゆる慢性疾患の根幹にあるとされる「慢性炎症」に対して、我々が日々口にするものが体内の何に対してどう影響するのか、その結果我々の体に何が生じるのかを、動物モデルや細胞を用いて包括的に研究しています。

肥満で生じる全身の炎症を抑える内因性カンナビノイドの二面性
食べ過ぎによる肥満は全身的な炎症を引き起こし、糖尿病や慢性的な痛みなど、全身の不調の土台になることが知られています。私たちは、この炎症を体の内側から調節する機構の一つとして、CB2受容体を中心とした免疫系の内因性カンナビノイド系に注目しています。
このCB2受容体は、神経の損傷では炎症や痛みを抑える方向に働きます。ところが私たちは、食べ過ぎによる肥満の炎症では、むしろ逆に、CB2受容体が末梢神経の炎症や痛みを進める側に回ることを見出しました(Hosoki et al, Life sciences, 2024)。さらに、この「抑える/進める」の切り替わりには年齢が深く関わること、しかもヒトならば10代から30代程度と比較的若い時分で、炎症を担う免疫細胞の集まり方が大きく変わることもわかってきました。現在は、CB2受容体がなぜこのような二面性を示すのか、その背後で免疫細胞がどう作られ動員されるのかを、分子のレベルで解き明かそうとしています。
オスだけを太らせる食用昆虫由来因子から性差代謝に迫る
同じものを食べても、体の応答は人によって、そして男女によって違います。中でも代謝には大きな性差があり、内臓脂肪が溜まりやすく、肥満による不調が深刻になりやすいのは男性の側だと知られています。けれども、なぜ男性が特別に太りやすいのか、その体のしくみはほとんどわかっていません。
私たちは、ある食用昆虫の粉末を通常の餌に少量混ぜて与えると、食べる量、摂取カロリーは変わらないのに、オスのマウスだけが顕著に太るという現象を見出しました。メスはまったく太らず、この差は性ホルモンの量だけでは説明できません。つまり、性ホルモンに頼らない、オスに特有の代謝のしくみが存在することを示しています。現在は、この昆虫由来の活性成分が何であるかの特定を進めるとともに、それが体のどこに働きかけてオスだけを太らせるのか、性差を生む代謝の中枢に迫っています。
食卓の身近な要素が、炎症と体にどう関わるか
「からだに良い」を問い直す対象は、特別な成分だけではありません。私たちは、食卓にある身近な要素が体に及ぼす影響も追っています。例えば、「からだに良い」とされる食物繊維が、実際は種類を選んで摂取しないとむしろ悪影響を及ぼすことを報告しています(Ito et al, ACS Pharmacology and Translational Science, 2024)。他にも塩分の摂り過ぎが肥満による炎症や痛みの経過をどう変えるのか。香辛料に含まれる成分が炎症の調節にどう関わるのか。あるいは、食物アレルギーのように、食べたものに対する免疫の反応が体にどう波及するのか。こういった多様な問いに、日々口にするものと体の応答という視点から取り組んでいます。