培養肉グループ
藻類と動物細胞を用いた循環型培養(Circular cell culture)システムの開発
培養肉グループは、早稲田大学と連携している東京女子医科大学に派遣され、農林水産省ムーンショット型研究開発事業の一つである、藻類の光合成を利用し食肉細胞を培養増幅させ、培養廃液は藻類の育成に使用する「サーキュラーセルカルチャーシステム(CCC)」という循環型の培養肉のエコシステムの開発を進めています。さらに、再生医療を応用した立体組織化技術により、増幅した細胞から培養肉を作製します。この新しい循環型の培養食料生産を実用化し普及させることで、持続的な食料供給と地球環境保全の両立を目指しています。

図1サーキュラーセルカルチャーシステム(CCC)の概略図
培地代替としての藻類
動物細胞を試験管内(in vitro)で培養するためには、細胞の生存および増殖に必要な糖質、窒素源、ビタミンなどの栄養素を供給する必要があります。一般的に細胞培養に用いられる基礎培地には穀物由来の栄養成分が含まれています。しかし、穀物に依存した細胞培養は、食料・家畜飼料・バイオ燃料との競合による穀物価格の上昇や、穀物生産に伴う土地利用、水資源の消費、農薬・化学肥料の使用などの環境負荷を引き起こす可能性があります。
私たちは、超音波処理、塩酸などの基本的な液体酸および低環境負荷の固体酸による加水分解を行うことで、藻類から動物細胞の培養に必要なグルコースやアミノ酸などの栄養素を抽出1,2できることを示しました。その他にも様々な手法を組み合わせると、従来法では抽出効率が低かったアミノ酸の抽出効率を高められることが分かりました。これらの抽出法を組み合わせることにより90%以上の高い藻類分解率を達成しました。
培養廃液を利用した藻類育成
動物細胞は、グルコースとアミノ酸を栄養源として取り込み、代謝老廃物として乳酸とアンモニアを排出します。細胞培養では、栄養源の枯渇と老廃物の蓄積によって細胞の生存や増殖が阻害されるため、定期的に培地を新しいものへ交換する必要があります。
培地交換の際に発生する培養廃液には、細胞が利用しきれなかったリン(P)やミネラルに加え、藻類の栄養源となるアンモニアが残存しているため、動物細胞の培養廃液を用いて藻類を培養することが可能です。さらに藻類は、アンモニアをアミノ酸へ変換する能力を有しています。また、遺伝子組換えにより乳酸を動物細胞の栄養源となるピルビン酸へ変換する機能を付与した藻類³を利用することで、培養廃液を藻類の増殖に活用すると同時に、廃培地を浄化することができます。
私たちは動物細胞の培養廃液で藻類を培養したとき、老廃物を8~9割以上の効率で除去できることを確認しました。また、藻類における老廃物の栄養転換(アップサイクル)で作られた再生培養液で動物細胞が増殖することも実証し⁴、穀物フリーの培養食料また廃棄物の低減の可能性を示すことが出来ました。これらの成果は、穀物フリー培地の循環利用を可能にする「Cell Culture Circularity(CCC)」の実現可能性を示すものです。

図2 サーキュラーセルカルチャーシステム(CCC)の研究成果
細胞シート技術を用いた培養肉の作製
培養肉とは、in vitroで増殖された動物由来骨格筋・脂肪細胞を、多様な組織工学技術により立体的な組織へと構築されることによって作られる培養食料です。近年、世界人口増加と伴い肉需要が高まる一方で、従来の畜産業では家畜伝染病のリスクや温室効果ガス排出をはじめとする環境負荷の増大が課題となっており、その持続可能性が懸念されています。そのため、無菌環境下で生産することで伝染病リスクを低減でき、かつ環境負荷の低い培養肉生産システムの開発が世界中で進められています。
東京女子医科大学で開発された特許技術である温度応答性培養皿を用いると、培養細胞を酵素処理することなく一枚のシート状組織として回収することができます⁵。このシート状の組織は「細胞シート」と呼ばれ、複数枚を積層して一体化させることで厚みのある組織を形成することが可能です⁵。私たちは、大量増殖した培養鶏由来細胞を用い、細胞シート積層法による培養鶏肉の作製に取り組んでいます。さらに、酵素凝固法、スフェロイド(細胞凝集塊)充填法、細胞ファイバー法などの組織工学技術も活用しながら、実際の食肉に近い構造や食感を再現した培養肉の開発を進めています。

図3 細胞シート積層法イメージ(左)と細胞シート10枚積層で作られた培養ハム(右)
参考文献
- [1] Okamoto, Y., Haraguchi, Y., Yoshida, A., Takahashi, H., Yamanaka, K., Sawamura, N., ... & Shimizu, T. (2022). Proliferation and differentiation of primary bovine myoblasts using Chlorella vulgaris extract for sustainable production of cultured meat. Biotechnology Progress, 38(3), e3239.
- [2] Haraguchi, Y., Kato, Y., Inabe, K., Kondo, A., Hasunuma, T., & Shimizu, T. (2023). Circular cell culture for sustainable food production using recombinant lactate-assimilating cyanobacteria that supplies pyruvate and amino acids. Archives of Microbiology, 205(7), 266.
- [3] Shimizu, T., Yamato, M., Kikuchi, A., & Okano, T. (2001). Two-dimensional manipulation of cardiac myocyte sheets utilizing temperature-responsive culture dishes augments the pulsatile amplitude. Tissue engineering, 7(2), 141-151.
関連論文
- [4] Ghosh, J., Haraguchi, Y., Asahi, T., Nakao, Y., & Shimizu, T. (2023). Muscle cell proliferation using water-soluble extract from nitrogen-fixing cyanobacteria Anabaena sp. PCC 7120 for sustainable cultured meat production. Biochemical and Biophysical Research Communications, 682, 316-324.
- [5] Chu, S., Haraguchi, Y., Asahi, T., Kato, Y., Kondo, A., Hasunuma, T., & Shimizu, T. (2024). A serum-free culture medium production system by co-culture combining growth factor-secreting cells and L-lactate-assimilating cyanobacteria for sustainable cultured meat production. Scientific reports, 14(1), 19578.