朝日研究室の物性科学班は、「物性グループ」と「電気化学グループ」の2つのグループから構成され、物性グループでは、キラル材料の「固体状態のキラリティ」に着目した研究を、 電気化学グループでは、「導電性メソポーラス薄膜を用いたバイオセンサ・化学センサ・光デバイス応用」に関する研究を中心に推進しています。メインの実験室 (2階と3階) と 学生居室 (3階) は先端生命医科学センター (TWIns、50号館) にありますが、早稲田大学の物性計測センター (55号館地下1階)、ナノテクノロジー研究センター (121号館2階) 、各務記念材料技術研究所 (42号館)、ときには茨城県つくば市にある国立研究開発法人物質・材料研究機構 (NIMS) や国立研究開発法人産業技術総合研究所 (AIST) などの学外の 設備・装置を有効活用しながら、「世界トップレベルのオリジナリティ溢れる研究」を推進しています。また、国内外の大学・研究機関のみならず、企業との共同研究も積極的に行い、 「研究成果の社会への還元・貢献」を見据えて研究を推進しています。
 以下に、当班で推進している研究の一部を紹介しますが、朝日研究室の物性科学班では、他大学からの修士課程・博士課程の学生も募集しています。
 興味がある方は、朝日教授(tasahi@waseda.jp) までご連絡下さい。

物性グループ


キラル光学的性質と光学的異方性
 自然界に溢れる左右非対称性、すなわち「キラリティ」は、様々な疑問を我々人類に与えます。例えば、アミノ酸にはD体、L体の鏡像異性体が存在しますが、生体を構成するたんぱく質に含まれるアミノ酸には、片方の鏡像異性体のL体しかありません。また、糖にも鏡像異性体が存在しますが、生体を構成するDNA 内の糖には、逆のD 体しかありません。これを生命のホモキラリティと言い、何故、生命はL体のアミノ酸、D体の糖を用いて構成されたのか?は、生命の起源にも関係する未解決の難問となっています。このため、ホモキラリティを持つ生体に対して作用する、医薬品、調味料、甘味料、香料などのキラリティがどちらであるか、は重要となっています。
 朝日研究室の物性グループでは、キラル材料の「固体状態のキラリティ」に着目した研究を中心に推進しています。実は、キラリティの評価は、溶液状態では、旋光計や円二色性分散計といった汎用的な分光装置を用いてキラル光学的性質 (光学活性と円二色性) を測定することにより比較的簡単に可能なのですが、結晶や配向性薄膜といった固体状態では、固体状態特有の異方性により、そのキラル光学的性質の測定が、上述のような汎用的な分光装置ではできません。しかし、当研究室では、固体状態のキラル光学的性質を測定可能な独自の分光装置「高精度万能旋光計 (Generalized-High Accuracy Universalpolarimeter:G-HAUP)」を開発してきており、このG-HAUP を用いることにより、有機・無機キラル材料の固体状態のキラリティの「謎」に独自のアプローチで迫ります。



研究内容

具体的な研究テーマ
1. キラルドラッグサリドマイドの物理化学的研究
2. 銅酸化物高温超伝導体の対称性の破れに関する研究
3. G-HAUPによる固体状態のキラル光学的性質測定
4. 新しい通信デバイスに関する研究
5.液晶による熱エネルギー変換の研究


キラルドラッグサリドマイドの物理化学的研究


医薬品サリドマイドのキラリティ (上) と
サリドマイドキラリティに起因した結晶構造の違いとその物理化学的性質への影響 (下)

 キラルドラッグの代表例であるサリドマイドは、鎮痛・催眠剤として販売されましたが、妊婦が服用した際に重篤な副作用である催奇形性が報告され、一旦販売が中止されました。しかし、近年になりサリドマイドは、ハンセン病、多発性骨髄腫など、複数の難病に対する薬効が報告され、販売が再承認されるなど再び注目を集めています。サリドマイドはキラリティにより、その薬理作用が大きく異なります。さらに、このサリドマイドのキラリティは条件により反転してしまうため、安全性の観点から「どういう条件でキラル反転してしまうか?」を評価することが不可欠です。しかし、サリドマイドは固体状態で販売され、固体状態で服用されているにも関わらず、サリドマイドのキラリティに関する研究は、ほぼ全てが溶液中で行われており、固体状態における研究は数例を除いてありません。本研究では、我々が独自に開発してきた光学測定装置、G-HAUPにより、固体状態のサリドマイドのキラリティを、液体状態を介さず「固体状態のまま」評価することにより、サリドマイドの固体状態における安定性、反応性 (キラル反転・加水分解) などの物理化学的特性をより正確に明らかにすることに挑戦しています。本研究により得られる知見は、サリドマイドをはじめとするキラルドラッグをより安全に使用するために有益であると期待されます。
 我々は、固体状態のサリドマイドのキラリティに着目し、サリドマイドの結晶を溶媒蒸発法により育成し、それらの単結晶X線構造解析及び量子化学計算を行うことにより、融点や溶解度といった物理化学的性質の違いが結晶構造に起因していることを世界に先駆けて明らかにしました [1]。この知見が「サリドマイドパラドックス」の解明につながりました。また、これまで明らかとなっていなかったサリドマイド代謝産物である(S)-4-carbamoyl-4-(1,3-dioxoisoindolin-2-yl)butanoic acid (CBG) の絶対構造を単結晶X線構造解析により決定し [2]、サリドマイドとCBGを含むサリドマイド代謝産物間の加水分解・脱水反応メカニズムを明らかにしました [3-5]。さらに、最近、サリドマイドの昇華法による結晶育成法を開発し、その際に気相中でサリドマイドがキラル反転を起こす可能性があることを実験的に明らかにしました [6]。

関連論文

[1] T. Suzuki, T. Asahi et al., Phase Transitions, 83, 223-234 (2010).
[2] K. Otogawa, T. Asahi et al., Acta. Cryst. E, 71, 107-109 (2015).
[3] Y. Ogino, T. Asahi et al., J. Theor. Biol., 373, 117-131 (2015).
[4] Y. Ogino, T. Asahi et al., Chirality, 29, 282-293 (2017).
[5] T. Taniguchi, T. Asahi et al., Chem. Lett., 50, 1388–1391 (2021).
[6] M. Kira, Y. Shiga, K. Nakagawa, T. Asahi et al., Cryst. Growth Des., 24, 3133-3139 (2024).



銅酸化物高温超伝導体の対称性の破れに関する研究


フローティングゾーン法により育成したBi2Sr2CaCu2O8+d (Bi2212) 結晶 (上) と
Bi2212結晶の非常に大きな直線複屈折と直線二色性 (下)

 超伝導現象は、電力・輸送・産業・情報などの広範な分野において、大幅な省エネルギー化が期待されています。一方、超伝導現象は極めて低温で発現する現象であり、その室温における実用化への道には目処が立っていません。この理由として、高温超伝導の発現機構が未だ解明されておらず、超伝導転移温度 (Tc) のさらに高い物質を設計・合成するための指針が立てられないことが挙げられます。高温超伝導の発現機構の解明のためには、超伝導体が持つ「特別な秩序」を明らかにする必要がありますが、この秩序に関する議論には未だ決着がついていません。
 本研究室では、我々が独自に開発してきた独自に開発してきた光学測定装置、G-HAUPにより、擬ギャップ相における対称性の破れの存否を明らかにすることにより、銅酸化物高温超伝導体の擬ギャップ相における秩序形成が何かを見出したいと考えています。G-HAUPは、物質の誘電率の反対称成分の実部と虚部を反映する光学的現象である光学活性・円二色性と、その対称成分の実部と虚部を反映する光学的現象である直線複屈折・直線二色性の同時測定が可能な唯一の偏光分光法です。光学活性・円二色性は、空間反転対称性及び時間反転対称性の破れにより発生するので、G-HAUPにより対称性の破れの存否を正確に評価することができます。これにより、擬ギャップ相における秩序形成に関する新しい実験結果に基づいた包括的な議論が初めて可能となります。
 劈開性を示す銅酸化物高温超伝導体のBi2Sr2CaCu2O8+ (Bi2212) 結晶のa軸、b軸方向の格子定数はそれぞれ5.3888 Å、5.3880 Åであり、異方性は非常に小さいことが予想されます。しかし、我々は、驚くべきことに非常に大きな直線複屈折の異常分散と直線二色性のピークがそれぞれ345、330 nm で観測されることを発見しました [1]。
 現在、我々は、測定試料を低温まで冷却可能なG-HAUP を新たに構築しています。今後、低温冷却G-HAUPを用いて擬ギャップ相における旋光性・円二色性と、光学的異方性を測定することにより、擬ギャップ相における対称性の破れの存否を明らかにするとともに、高温超伝導体が持つ特別な秩序を明らかにすることを目標に研究を進めています。

関連論文

[1] K. Zhang, K. Nakagawa, T. Asahi et al., J. Phys. Soc. Jpn., 90, 113702 (2021).



G-HAUPによる固体状態のキラル光学的性質測定


G-HAUPの外観 (上) と
G-HAUPにより明らかにした他の物理量では決して得られない様々な有益な知見 (下)

 物質のキラリティを定量的に評価することはきわめて重要です。キラリティを評価する手法として、左右円偏光に対する屈折率の差 (光学活性) と吸収率の差 (円二色性) の測定が挙げられます。このようなキラル光学的性質の正負の符号を決定することによりキラリティを識別することができます。さらに、符号のみならず、波長、温度、電場、磁場、pHの変化などの外部刺激による光学活性や円二色性の定量的な変化を精密に測定することにより、他の手法では明らかにできない、分子の電子構造や立体構造、さらには分子間の相互作用に関する知見を得ることができます。キラル光学的性質を測定する汎用的な手法として、旋光計や円二色性分散計が用いられてきました。しかし、これらの測定手法が適用できるのは、溶液やアモルファス薄膜のような等方性物質に限られます。結晶や配向性薄膜のような異方性物質では、複屈折や直線二色性といった光学的異方性が同時に存在するため、通常の旋光計や円二色性分散計ではキラリティを定量的に測定・評価することはできませんでした。
 小林らは1983年に、画期的な光学測定装置、高精度万能旋光計 (High Accuracy UniversalPolarimeter、HAUP、通称ハウプ) [1-2] を開発し、異方性物質のキラル光学的性質と光学的異方性の同時測定を可能にしました。小林の流れを汲む当研究室は、HAUPを更に進化させた一般型高精度万能旋光計 (Generalized-HAUP、G-HAUP) [3-4] を用いて、アキラルな分子から成るキラル結晶の光学活性測定 [5-7]、アミノ酸結晶の光学活性測定 [5,6]、層状無機結晶にインターカレートした有機色素分子のキラル光学的性質測定 [3]、バイオマテリアル積層コラーゲン薄膜の光学活性測定 [8]、キラルなフォトメカニカル結晶のキラル光学的性質測定 [9] を行い、他の物理量では決して得られない様々な有益な知見を明らかにしてきました。また、研究領域をキラル光学から磁気光学分野へと拡げ、HAUPの光学系を試料に磁場が印加できるように改良することにより、光軸に垂直な方向のファラデー回転 (磁場を光の進行方向に平行/反並行に印加したときの光学活性) の世界初の精密測定にも成功しました [10]。

関連論文

[1] J. Kobayashi et al., J. Appl., Cryst., 16, 204-211 (1983).
[2] J. Kobayashi, T. Asahi et al., Phys. Rev. B, 53, 11784 (1996).
[3] M. Tanaka, T. Asahi et al., J. Phys. Appl. Phys., 45, 175303-175311
[4] T. Asahi, K. Nakagawa et al., Chiroptical Studies on Anisotropic Condensed Matter: Principle and Recent Applications of the Generalized-High Accuracy Universal Polarimeter. Crystal Growth Technologies and Applications, IntechOpen (2022).
[5] K. Ishikawa, T. Asahi et al., Chem. Commun., 48, 6031-6033 (2012).
[6] K. Ishikawa, T. Asahi et al., J. Phys. Chem. Solids, 104, 257-266 (2017).
[7] K. Nakagawa, B. Kahr, T. Asahi et al., J. Phys. Chem. C, 121, 25494-25502 (2017).
[8] K. Nakagawa, T. Asahi et al., Chem. Commun., 50, 15086-15089 (2014).
[9] A. Takanabe, H. Koshima, T. Asahi, J. Am. Chem. Soc., 138, 15066-15077 (2016).
[10] K. Nakagawa, T. Asahi, Sci. Rep., 9, 18453 (2019).



新しい通信デバイスに関する研究

 通信機器の多様化や、Internet of Thing (IOT) などの通信ネットワークを経由したサービスの増大、また、人工知能 (AI) の急速な普及によって、ネットワーク内でIT機器の処理すべきデータ量や消費電力は飛躍的に増大しています。将来の大容量通信を担うネットワークにおいては、パッケージやチップの圧倒的な小型化や集積化が非常に重要です。現在、大容量、低消費電力、低遅延なネットワークを可能にするオールフォトニック・ネットワークへの注目及びニーズが急速に高まっています。本研究では、複数の企業と共同で、新しい通信デバイスの開発に向けた研究を行っています。

液晶による熱エネルギー変換の研究


液晶のイメージ
 液体と結晶の特徴を併せもつ「液晶」は、ディスプレイや温度計、食品医薬品化粧品などに応用されています。なかでも、空間反転対称性の破れたキラル液晶は、熱エネルギーを運動に変換できるため、スーパーコンピュータから捨てられる熱エネルギーの有効活用と GX 化への貢献が期待されています。多くの研究が相転移温度近くで行われていますが、そのような系は狭い温度範囲でしか維持できないため、温度変化に晒される実社会への応用には向きません。そこで本研究では、相分離を利用し、あらゆる温度で動作可能なロバストな熱エネルギー変換デバイスの開発を進めています。これまでに、液晶を特殊なアルコール中に浮遊させることで、温度安定性を 0–100℃に拡大しました。これには、アルコールと液晶が分子レベルで反発し合い、別々の塊に分かれる相分離を用いています。また、エネルギー変換効率を高めるため、幾何学にも注目しています。アルコール中を浮遊する液晶は、界面張力の作用で球形にまとまります。このとき、液晶分子が隣同士で同じ方向に揃おうとする一方、球面は平面とトポロジーが異なるため、分子の方向が定まらない場所が生じます。この場所は、Dirac モノポール、超伝導の渦糸、skyrmion と同様に、液晶分子の配向秩序を著しく変調させます。この柔らかい幾何学であるトポロジーを活用し、Carnot サイクルの理論限界に迫る世界最高効率の熱エネルギー変換デバイスの作製を目指しています。

電気化学グループ


メソポーラス膜のセンサデバイスや光デバイスへの応用
  近年、物質のナノスケール構造とそれによって生じるナノスケール空間を自在に制御することで、革新的な機能性材料の創出に繋げる技術の開拓に注目が集まっています。「導電性メソポーラス膜」は、直径2-50 nm程度の制御された多数の微細な空間 (細孔) を持ちながら、電気伝導性も有する無機構造体 (金属や導電性無機材料) ですが、これまでの代表的な無機多孔体であるゼオライトやメソポーラスシリカと比較して、高い電気伝導性や、ナノ空間で生じる様々な電気・磁気・光学的性質・触媒活性などの点で、圧倒的な優位性があります。朝日研では、電気化学分析システムや新開発の光学システムなど、「独自の計測技術」に基づく先進的な研究を通じて、様々なアーキテクチャを持つナノ構造と物理化学的特性の関係を解析・理解し、センサデバイスや光デバイスへの応用を図ることで、「夢の材料」の創出に貢献します。


研究内容

具体的な研究テーマ
1.メソポーラス膜を用いた高感度センサデバイスの開発
2.メソポーラス膜の特徴的なナノ細孔を活かした光学特性の制御と光デバイスの開発
3.医療のモビリティ化に向けたバイオセンサデバイスの開発


メソポーラス膜の特徴的なナノ細孔を活かした光学特性の制御と光デバイスの開発

  光デバイスの高性能化のために、近年、材料自体のみならず、材料のナノ構造や多層膜化といった特徴的な構造による高性能化に期待が集まっています。「導電性メソポーラス膜」は、ナノ細孔の大きさ、厚さ、密度などを、合成条件を制御することにより精密にデザインすることができますが、メソポーラス膜の特徴的なナノ細孔を活かすことにより、光学特性を効率的に制御できる可能性があります。本研究では、様々な条件により合成したメソポーラス膜の光学・電気特性を、独自に構築した光学・電気評価系を用いて評価することにより、メソポーラス材料を用いた光デバイスにおける詳細な動作メカニズムを明らかにするとともに、メソポーラス膜の細孔を制御するという全く新しいコンセプトにより光学特性を効率的に制御する光デバイスの開発を目指しています。

医療のモビリティ化に向けたバイオセンサデバイスの開発

 健康寿命の延伸は重要な政策課題であり、健康の維持には、早期診断による早期治療が必 要です。近年、医療・介護分野における人手不足や医療費のひっ迫などの社会課題の解決 も求められています。そのため、患者に近いところでの検査を可能にするポイント・オブ ・ケア・テスト (POCT) デバイスによる医療機器・装置のモビリティ化が期待されてい ます。本研究では、医療のモビリティ化の実現に向けて、電極チップ型のバイオセンサに 着目し、朝日研究室独自の「生体分子の設計」と「電極表面の制御」を組み合わた新しい バイオセンサデバイスの開発を企業と共同で行っています。 GX 化への貢献が期待されています。多くの研究が相転移温度近くで行われていますが、そのような系は狭い温度範囲でしか維持できないため、温度変化に晒される実社会への応用には向きません。そこで本研究では、相分離を利用し、あらゆる温度で動作可能なロバストな熱エネルギー変換デバイスの開発を進めています。これまでに、液晶を特殊なアルコール中に浮遊させることで、温度安定性を 0–100℃に拡大しました。これには、アルコールと液晶が分子レベルで反発し合い、別々の塊に分かれる相分離を用いています。また、エネルギー変換効率を高めるため、幾何学にも注目しています。アルコール中を浮遊する液晶は、界面張力の作用で球形にまとまります。このとき、液晶分子が隣同士で同じ方向に揃おうとする一方、球面は平面とトポロジーが異なるため、分子の方向が定まらない場所が生じます。この場所は、Dirac モノポール、超伝導の渦糸、skyrmion と同様に、液晶分子の配向秩序を著しく変調させます。この柔らかい幾何学であるトポロジーを活用し、Carnot サイクルの理論限界に迫る世界最高効率の熱エネルギー変換デバイスの作製を目指しています。