マテリアルズ・インフォマティクス班


マテリアルズ・インフォマティクス班では、データ科学を活用して新規材料探索や機能創出を目指しています。自分たちで手を動かして実験データを得ることができる朝日研究室の強みを活かして、研究室内で取得・蓄積してきたデータを主に解析に用いています。研究室内の他の班や、他大学、NIMSなどの研究所とも連携しながら、材料や機能の探索を行なっています。

(1) 回帰分析による光アクチュエータ結晶の変位と力のモデル化


図1 多項式回帰による光アクチュエータ結晶の変位と力のモデル化
 アクチュエータとは、外部刺激を動きへ変換する材料や機構のことを指し、モーターなどとして日々の生活を支えている。そのようなアクチュエータの中でも、光アクチュエータ結晶は、光による遠隔操作が可能であることから、注目を集めている。しかし、アクチュエータの性能指標として、どれだけ動いたのか表す変位と、動いた時に生じる力(発生力)が重要であるものの実験条件との関係性を得ることが難しい。
 そこで本研究では、機械学習に含まれる回帰分析を用いて変位と発生力のモデル化し、実験条件との関係性を数式として明らかにした。まず、enol-(S)-1分子から構成される板状結晶に注目し、さまざまな結晶サイズ、紫外光の照射強度を変化させて、変位と発生力を測定した(図1)。測定した結果を基に、多項式回帰によってモデルを構築した(図1)。この研究は、望みの変位と力を示す光アクチュエータ結晶の探索につながり、応用化しやすくなる[1]。

文献

[1] Kazuki Ishizaki, Ryota Sugimoto, Yuki Hagiwara, Hideko Koshima, Takuya Taniguchi, Toru Asahi, “Actuation performance of a photo-bending crystal modeled by machine learning-based regression”, CrystEngComm, 2021, 23, 5839–5847. ULR: https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2021/ce/d1ce00208b


(2) 機械学習を使った高出力する光アクチュエータ結晶の設計と作製


図2 研究の全体図
 アクチュエータとは、外部刺激を動きへ変換する材料や機構のことを指し、モーターなどとして日々の生活を支えている。光アクチュエータ結晶は、光による遠隔操作が可能であることから、今までにないアクチュエータ材料として期待されている。本研究では、アクチュエータの重要な性能指標である発生力に注目し、より大きな発生力を示す条件の探索を目指す。発生力は、ヤング率、結晶サイズ、光強度に依存することが考えられる。つまり、高出力する条件を探索するためには、発生力に関連する三つの要素を最適化する必要がある。最適化する前に、より多くの条件を検討するために”探索する範囲の拡大”する。今回は、探索範囲を拡大しにくいヤング率の多様化に注力する。一方で、無作為に実験をしても実験数が膨大になってしまうため、“効率的な光アクチュエータ結晶が高出力する条件の探索”も必要である。そこで、本研究でLASSO回帰を用いたヤング率の多様化と、ベイズ最適化を用いた最適な条件の探索を行う(図2)。LASSO回帰とベイズ最適化は機械学習に含まれる手法である。

(3) 機械学習を活用した高性能ペロブスカイト太陽電池開発への取り組み


図3 ペロブスカイト太陽電池のエネルギー効率に対する機械学習分析
 ペロブスカイト太陽電池は、製造コストの安さや低照度環境でのエネルギー変換効率(PCE)の高さなどから次世代の発電機構として注目を集めている。その一方で、安定性には一定の課題を伴うため、PCE・安定性ともに優れる太陽電池の開発を進めることが重要である。太陽電池のデバイス性能は、材料組成だけでなく、非常に多くの実験プロセス条件の影響も受ける。そのため性能の予測は難しく、実験のみによる材料やデバイスの開発は非効率的である。この問題を解決する手段として、機械学習を活用した条件探索の有効性が期待されている。我々は、200変数以上のプロセスを含むデータを、機械学習に適用するための手法を検討・開発した。これにより、各変数がPCEに与える影響の定量化に成功した。その結果、機械学習を活用した材料開発におけるプロセス条件の考慮の重要性を改めて示した。[2]
 ペロブスカイト太陽電池が抱える課題である安定性についても、同様のアプローチで取り組んでいる。これに加えて、新しい材料の検討も進めている。

文献

[2]Ryo Fukasawa, Toru Asahi, Takuya Taniguchi, “Effectiveness and limitation of the performance prediction of perovskite solar cells by process informatics”, Energy Advances, 2024, 3(4), 812-820. URL: https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2024/ya/d3ya00617d