生物応用班では、現代社会が直面している諸課題に対して、基礎から応用まで網羅した生命科学研究を展開することで、持続可能な社会の構築に貢献しようとしています。多くの研究は、国内外の大学や研究機関や民間企業と協力しながら研究活動に取り組んでいます。


未利用生物資源の機能開拓


図1. タイワンエンマコオロギ

図2. ゲノムを保有するコオロギ
世界人口の急激な増加に伴い動物性タンパク質の需要が増大し、その供給が追いつかなくなる危機(タンパク質クライシス)が差し迫っています。動物性タンパク質は人類の食料として重要であるのみならず、家畜や養殖の飼料原料の中心的な役割も担っています。 そこで、私たちは代替動物性タンパク質原料としてコオロギに着目しています。コオロギは、(1)発育期間が比較的短いこと、(2)雑食性であること、(3)高密度飼育が可能であること、(4)人畜共通感染症のリスクが低いことから、 タンパク質クライシスを回避する有望な代替動物性タンパク質原料として注目を浴びています。しかし、その生産コストは依然として高く、高効率かつ低環境負荷な生産が求められています。

コオロギの高効率な生産を達成するための第一歩として、私たちは世界で初めて食用コオロギ(タイワンエンマコオロギ Teleogryllus occipitalis; 図1)の全ゲノム塩基配列解読に成功しました [1]。 これより、品種改良の標的となる遺伝子を効率良く探索することが可能になりました。現在、本種の高効率生産を達成するために逆遺伝学的アプローチによる品種改良のターゲットとなる遺伝子の探索を実施しています。また、世界中のコオロギの全ゲノム情報を用いてゲノム進化学を基盤とした基礎研究も進行中です(図2)。

生体内カンナビノイド系の恒常性維持機構


図3. CB1受容体は海馬神経細胞において
マイトファジーやミトコンドリア形態を制御する

先進国で高齢化が加速度的に進む中で、老化研究の重要性は高まりつつあります。老化は、生体恒常性を維持するメカニズムの破綻として捉えられ、生体恒常性を維持するメカニズムへの理解は超高齢化社会における諸課題への解決に重要だと考えられます。内在性カンナビノイド系は、中枢神経系や筋肉などの全身の臓器や組織において、恒常性の維持に重要な役割を担っています。特に、中枢神経系では加齢とともに内在性カンナビノイド系が変化することが報告されています。しかし、内在性カンナビノイド系が加齢に伴う中枢神経系の機能変化にどのように関与しているのか、十分に明らかにされていません。

そこで、内在性カンナビノイド系を構成する1型カンナビノイド(CB1)受容体に着目しました。CB1受容体は、中枢神経系で最も発現量の多いGタンパク質共役型受容体として知られ、興味深いことにCB1受容体をノックアウトしたマウスは加齢に伴う記憶障害を急速に引き起こすことが分かっています。私たちは、CB1受容体がどのようなメカニズムで加齢に伴う記憶の変化に関与しているのか調べた結果、CB1受容体が海馬神経細胞においてミトコンドリアの品質管理に重要な役割を担っていることを見出しました [2,3]。これより、内在性カンナビノイド系と中枢神経系の加齢に伴う変化を結ぶメカニズムへの糸口が拓けました。現在、さらなる分子メカニズムの探究や他の臓器における機能の研究を展開しています。

参考文献

[1] Kataoka, K., Minei, R., Ide, K., Ogura, A., Takeyama, H., Takeda, M., Suzuki, T., Yura, K., Asahi, T. (2020) The Draft Genome Dataset of the Asian Cricket Teleogryllus occipitalis for Molecular Research Toward Entomophagy. Front. Genet. 11, 470. DOI: 10.3389/fgene.2020.00470

[2] Kataoka, K., Bilkei-Gorzo, A., Nozaki, C., Togo, A., Nakamura, K., Ohta, K., Zimmer, A., Asahi, T. (2020) Age-dependent Alteration in Mitochondrial Dynamics and Autophagy in Hippocampal Neuron of Cannabinoid CB1 Receptor-deficient Mice. Brain Res. Bull. 160, 40-49. DOI: 10.1016/j.brainresbull.2020.03.014

[3] Kataoka, K., Bilkei-Gorzo, A., Zimmer, A., Asahi, T. (2020) Immunohistochemical Characterization of Phosphorylated Ubiquitin in the Mouse Hippocampus. bioRxiv, DOI: 10.1101/2020.01.20.912238